経済「経済への視点」
コミュニティ・プランナーズではシンクタンク・コンサルティングセクションによる経済レポートを毎月公表しています。担当は主任研究員の南正明が担当します。
目 次
- 景気上昇は期間の長さよりも中身が大切
- 地域間所得格差は自主努力で解決するか
- ゼロ金利解除は景気に影響なし
- 労働需給の改善が賃金の上昇に結びつくか
- 経済分析は客観的、多面的に
- いざなみ景気抜きも回復感がでない要因を日銀「短観」からみる
- 工場立地は大都市圏回帰
- 2007年度の日本経済も輸出主導の回復感の乏しい上昇
- 政策金利引き上げ見送りで、今後の引き上げの理由付けは
- 07年からの団塊世代の退職、07年問題は企業次第
>>>11以降のレポートはこちらをご覧下さい
07年からの団塊世代の退職、07年問題は企業次第(2007/3/1)
今年から団塊の世代の定年退職時代に入り、いわゆる07年問題が話題になっているが、何が問題かが必ずしも明確に示されているわけではない。団塊の世代の退職の問題をホワイトカラー労働者と現場労働者に分けると、主として現場労働者の持つ生産部門の技能、技術を次の世代に伝承できるかどうかにかかってくる。その原因は、現場労働者は30年以上前の1973年の第1次オイルショック後、戦後の高度成長が終わり、日本経済の成長が鈍化したときにまで遡る。
それまでは高度成長によって需要、生産の高い伸びを前提に、現場労働者の人員計画を立てて採用してきた。人材育成に年月がかかることを前提に先行的に採用すれば、その後の需要の伸びが予想を下回り、生産計画が下方修正されれば、余剰人員が発生することになる。
加えて、当時は電子技術革新が進み、これが機械の制御に導入され、電子技術と機械技術の融合、いわゆるメカトロニクス化が進展した時代と重なる。この技術革新により生産現場の省力化、合理化が着実に進み、生産性が急速に向上した。労働者不足による人件費の上昇もあって、企業は省力化、合理化のために積極的にメカトロニクス機械・装置を導入してきた。これも現場労働者の余剰化をもたらす要因になる。
結果、現場労働者を首切りしなくても、長期間にわたって新規採用の抑制が行われた。もちろん、新規採用がゼロになったわけではないが、高度成長期に採用された層の厚い団塊の世代が退職すれば、ノウハウも含めて現場の技能、技術の伝承をできなくなる懸念が出てくる。
これが07年問題の実態だが、定年は企業が決めているだけで、労働者が決めているわけではない。実際、中小企業の現場では定年制がないところも多く、60歳以上の労働者が働いている中小企業は珍しくない。つまり、07年問題は主として大企業の問題になる。定年制のある企業では、かつては55歳定年が一般的で、98年以降の60歳以上定年制が法律で義務化されたため、60歳定年制が導入された。
また、総務省「労働力調査」によれば、労働力化率は5歳年齢階級別で、07年問題の対象になる男性では25〜29歳から55〜59歳まで90%を超えている。定年後の60〜64歳では低下するが、06年の実績で70.9%と7割が労働力である。65〜69歳でも47.7%と半数近い。
労働力は働いているか、失業中でも職を求めている人であり、体が弱ったり、病気で働けない人は労働力に入らない。また、働く気はあっても、望むような仕事が無く、求職活動を諦めた人も除かれ、不況期には労働力化率は低下するが、それでも7割以上の人は働きたいと思っている。もちろん、第2の人生で従来とは異なる趣味で働く人も少なくないであろうが、このような人も収入は少なくても労働力、就業者に含まれる。
ちなみに、現実に60〜64歳人口に対して就業している人の比率でも67.1%と7割近い。就業者率を長期的な推移をみると、かつての8割を超えていた水準から、80年代には6割台に落ちてきた。その後、90年代初めには一時的に7割を超えたが、最近は6割台で上下している。かつて高かったのは自営業者が多かったためで、定年制のある雇用者の増加で低下することになった。同時に、雇用者の増加は景気の影響を受けるようになる。かつての8割を越える数字や労働力の定義から考えれば、60歳になっても08年の60〜64歳の労働力化率である7割より就労意欲は強いと推測できる。
07年問題で企業が対策をとらなければならない労働者は、高度なノウハウや技術を持った人になる。このような人は自分のノウハウや技術に誇りを持っている人が多いことから、企業が残ってそれを伝承してほしいと要請すれば、高い労働力化率から判断して残る可能性は高い。そのためにはそれ相応の労働条件が必要になる。大企業の定年退職者は低賃金で無理して働く必要はないからである。
結局、企業が必要とし、労働者が働く意欲があれば、後は労働条件の問題になる。それはホワイトカラー労働者でも同様の人材に関しては同じであろう。最近の企業は低賃金で働かす仕組みの構築に熱心だが、それでは07年問題が顕在化し、長期的に墓穴を掘るだけではないか。経営者は長期的な観点から雇用戦略を立てる能力が問われることになる。
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政策金利引き上げ見送りで、今後の引き上げの理由付けは(2007/2/1)
1月17、18日の日本銀行の金融政策決定会議を控えて、0.25%の政策金利(無担保コール翌日物金利)の0.5%への引き上げを行いたい日銀とそうはさせたくない政府との対立が高まったが、結局、金融政策決定会議は引き上げないことを決定した。政府は反対の理由として、景気回復、個人消費が力強さに欠け、金利引き上げが景気に影響することを挙げている。本音は選挙前の産業界への配慮と金利上昇による国債費の負担増を少しでも避けたいのであろう。
もともと、景気回復力、個人消費が弱い中で、特に、個人消費は夏の天候要因がマイナスに働き、冬も暖冬であり、足下の消費は強くはならない。しかし、輸出主導の成長下にある日本経済は当面、輸出が減少に転じることはないため、基調に変化はないと考えられる。もしあるとすれば、金利引き上げで為替レートが1ドル=100円を上回るような円高騰になった時だが、0.25%程度の引き上げでは為替レートへの影響は軽微であり、国内経済への影響もほとんど予想されない。
一方、日銀は景気がいざなぎ景気を超える長期上昇を続け、個人消費も堅調で、デフレ状態を脱して消費者物価上昇率もプラスになっているとして、金利引き上げを打ち出した。現在の異常な低金利状態を是正することは必要だが、その条件として景気、個人消費の堅調と消費者物価上昇率のプラスを挙げると難しくなる。
個人消費は今年の春闘賃上げ額も現状では低額で終わり、税金や社会保険料の負担が高くなることから判断すれば、新年に入っても伸び率が高くなることは予想されない。また、消費者物価上昇率(季節商品を除く総合)は2006年度に入ってプラスになっているが、その主たる要因は原油価格の上昇にあり、すでに原油価格が値下がりに転じているからである。
消費者物価はサービス財と物財の比重がほぼ半々で、サービス財は人件費の影響が大きい。人件費は企業が抑制姿勢を変えていないため、有効求人倍率が1を大幅に上回っているパートでもほとんど上昇していない。可能性があるとすれば、燃料費の上昇で採算が悪化している運輸サービスの値上げだが、これも今のところ業界の競争が激しくて値上げは難しい状態にある。実現すれば、輸送費はほとんどの物財の価格にも反映するため、消費者物価への波及効果は大きい。
輸送費の問題を除けば、物財が消費者物価の先行きの鍵になり、物財の価格は日銀の企業間取引物価「企業物価指数」の国内需要財から予測できる。通常、企業物価指数では06年12月の結果発表時に、新聞等では「国内企業物価の06年上昇率は前年比3.1%増、輸入物価同16.4%増、輸出物価4.7%増」などと報告される。これだけを見れば、原油をはじめ原燃料の比重の高い輸入物価までは心配しなくても、そのうち国内企業物価並に消費者物価も上昇しそうという印象になる。
企業物価指数統計では、[参考]として需要段階別・用途別指数もある。これで国内企業物価と輸入物価を合わせた国内需要財が素原材料、中間財、最終財の生産工程段階別に集計、公表されている。これを見ると、06年の上昇率は全体の国内需要財5.1%増に対し、素原材料19.9%増、中間財6.1%増、最終財0.5%増で、加工工程が後になるほど上昇率は急速に低下し、最終財では前年のほぼ横ばいになる。
最終財は資本財と消費財に分けられ、それぞれ0.0%、0.6%増で、消費者物価に影響する消費財は小幅でもプラスである。これはさらに家電、自動車等の耐久消費財とガソリン、食料等の非耐久消費財に分けられ、それぞれ1.0%減、1.3%増となる。耐久消費財は技術革新による価格低下の影響でマイナスになり、非耐久消費財は国内品0.7%増、輸入品5.9%増と輸入品の影響が大きい。石油製品の値上がりや世界的な異常気象による穀物の国際価格上昇と為替レートの円安の影響である。
為替レートが最近の1ドル=120円前後より一段と円安に進むことは考えられず、穀物の値上がりだけで輸入品の上昇が続くことは予想し難い。すでに輸入物価指数は前年比で1桁台の上昇率にまで下がってきている。企業物価指数の消費財が上昇しなければ、消費者物価の物財も値上がりしないため、消費者物価が再び下落までには至らなくても上昇基調にはならず、せいぜい横ばいであろう。
副作用が深刻化しないうちに異常な低金利は早く終了させた方がいいが、経済成長率が高まらず、消費者物価も横ばいということになれば、今後も日銀の金利引き上げ条件がきれいに揃うことは予測しがたい。今回、金利引き上げしなかったことで、早ければ2月ともいわれている金利引き上げの理由付けは難しいのではないか。
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2007年度の日本経済も輸出主導の回復感の乏しい上昇(2007/1/1)
内閣府が12月8日、2006年7〜9月期の第2次GDP速報値を発表したのを受け、各機関の07年度経済見通しがほぼ出揃い、19日には政府見通しも閣議決定された。07年度経済見通しでは、各機関による格差がほとんどないのが特徴で、戦後最長の景気上昇期間記録「いざなぎ景気」を06年11月に抜いた後も、輸出主導で回復感が広がらないまま上昇を続ける予測で一致している。
06年7〜9月期の第2次GDP速報値によると、同期の実質GDP成長率は前期比0.2%増、年率0.8%増となり、11月14日に発表された第1次速報値のそれぞれ0.5%増、2.0%増から下方修正になった。第2次速報値では成長率の頭打ち傾向がより顕著になった形だが、需要項目の中では、第1次から第2次で民間最終消費支出(個人消費)の0.7%減から0.9%減へのマイナス幅拡大が目立っている。
個人消費に関しては、06年春頃までは収入が増えない中で、比較的堅調という見方もあったが、この第2次速報値でそれが否定された。ただし、7〜9月期の個人消費は梅雨明けの遅れに加えて夏の天候不順があり、実態以上に低迷したということがある。
この結果、06年度のGDP成長率は実質で2%弱、名目で1.5%程度の増加見込みになっている。1年前の政府見通しでは実質1.9%増、名目2.0%増であったので、名目が過大推計という結果になる。デフレ終了によってデフレーターがプラスに転換するという判断が誤りだったことになるが、政府見通しは政治的要因も入るため、担当者が本当にそのように見通していたかは別である。
また、民間の予測機関では、高い方は実質2%台後半で、名目もほぼ同じ、デフレもほぼ終了となり、低い方は実質で1.5%前後、名目はそれより零点数ポイント低くなっていた。結果として低い方が比較的正確だったことになる。
07年度のGDP成長率見通しは、政府が実質2.0%増、名目2.2%、民間の予測機関は表にみるように格差が少なく、実質で2%前後、名目はそれを零点数ポイント高いということでほぼ一致している。結局、政府は全体の中間に位置し、デフレも解消ということになる。景気後退局面入りは予想されず、いざなぎ景気を大幅に上回って上昇は続くが、今までのような回復感が広がらないまま07年度も推移する見通しになる。
各機関で格差が出なかったのは前提となる制約条件に差がないことによる。@米国経済は懸念された住宅バブル崩壊の影響が軽微との見方が広がり、また、為替レ−トは円高傾向だが、円の高騰はなく、輸出主導の成長が維持される、A原油価格は天井を打ったが、高水準で推移する、A個人消費は低迷のまま、B公共投資は抑制されるが、税収増から減少幅は縮小する、C企業収益の改善で民間設備投資の拡大は続くが、最終需要の伸びが低い中では加速はしない、D金利は引き上げられても小幅で、景気に影響を与えるほどではない、などの見方でほぼ一致しているからである。
ただし、皆が一致すると予測は外れるといわれている。もちろん、今回もそうなるかどうかは分からないが、悪くなるとすれば、為替レートの1ドル=100円を上回る円高騰というよりはドル暴落、中東における紛争や中国の政情不安などで輸出が落ち込み、景気後退局面入りが考えられる。逆に、上振れには、例えば、消費税を段階的に引き上げて駆け込み需要を発生させることがあるかもしれないが、これだとその後には反動があり、後が心配になる。外れる場合は悪くなる方の可能性が高い。
安定した日本経済の成長のためには、GDPの6割近くを占める個人消費の回復が必要になる。それには正社員の雇用が増えるように法改正、減税では高収益の企業ではなく個人、さらには国民が老後の安心を得られるような年金制度の確立などが必要条件になる。
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工場立地は大都市圏回帰(2006/12/1)
地方自治体はで経済発展、雇用増の柱の一つとして、企業誘致に力を入れているところが多い。具体的には工場誘致が中心であり、高度成長期の1960年代から大都市圏、特に京浜工業地域、阪神工業地域の土地不足、労働力不足から着実に工場の地方分散が進んできた。これによる工場立地が地方の経済を支え、牽引する要因の一つになっていたと。ところが、バブル崩壊後の90年代になって長期不況で工場の新増設が大幅に減少、さらには閉鎖されたのに加え、アジア地域、なかでも中国の工場進出が活発化し、工場の地方分散にブレーキが掛かった状態になった。
それでも、最近では政治リスクの再認識、生産ノウハウの流出懸念などから国内生産の再評価が進み、国内立地の回復がいわれるようになってきている。実際、経済産業省「工場立地動向調査」(敷地面積1,000平方b以上の工場と研究所)では工場(研究所を含む)立地件数は2002年の844件を底に増加に転じている。景気も02年から回復基調にあることも効いている。
従来であれば、工場立地の増加は地域にとって経済成長をもたらすことが期待できる。しかし、地域別に最近の工場立地動向をみると、大都市圏への立地が増える一方、地方は減少しており、工場立地でも地域間所得格差を拡大させる要因になっている。
工場立地をまず、国内立地が盛んであったバブル期前の増加に転じた84年からバブル期までで区切る。バブル崩壊は90年だが、本格的な不況感が広がるまでには数年を要し、立地件数の天井は89年の4,147年だが、水準としては2,484件と高い92年までをバブル期の立地と考える。ちなみに、翌93年の立地件数は1,624件である。その後は不況と海外立地から低迷が続き、02年の844件を底に増加に転じており、93〜02年を長期低迷・海外立地期とする。そして、03年以降を回復期として3期に分けて比較する。
年平均の立地件数はバブル期の3,041件に対し、長期低迷・海外立地期は1,265件とバブル期の4割程度の水準に落ち込んでいる。最近の回復期は1,348件(06年上期は2分の1年で計算)と長期低迷・海外立地期を6.6%上回るだけけで、まだバブル期の半分以下でしかない。
これを地域別にみると、東海は別として、関東臨海、近畿内陸・臨海の大都市圏は高度成長期以降、工場の地方分散によって全国における立地件数、ひいては工業出荷額の比重を低下させてきた。ところが、バブル期以降の工場立地件数は、東海はもちろん、関東臨海、近畿内陸・臨海などいずれも長期低迷・海外立地期の近畿内陸は別として全国での比重を高めている。これら3期間の関東臨海、東海、近畿内陸・臨海を合わせた比重の推移は25.5%、26.9%、38.7%となっており、回復期の比重増は顕著である。
かつての地方分散とは逆の動きで、工場敷地面積でも回復期の増加が目立っており、大都市圏だから小規模工場立地というわけではない。その一方で、回復期に全国の立地件数が増える中で、地方では立地件数自体が減少している。これは地域間経済格差の拡大要因になりうる。というよりも、既になっているのかもしれない。
このような工場立地の大都市圏回帰の要因としては@企業倒産、経営再構築に伴い閉鎖された工場からの工場用地供給増、A失業者増による人材不足の解消、B地方分散を促進させる工業制限三法の規制緩和、などが挙げられる。最後の規制緩和は大都市圏の工業の衰退が日本の国際競争力衰退に結びつくのではという懸念から行われている。
工場立地件数が大幅に増加すれば、再び地方の比重が高くなることも想定できる。しかし、日本経済の成長力に期待できない現状ではそれほどの増加は見込めず、工場立地の大都市圏回帰現象が続くことが予想される。もちろん、工業生産力は新規立地に既存の立地分を合わせたものであり、新規立地がなくても既存工業による経済発展は期待できる。とすれば、地方が経済発展するためには従来から力を入れていた工場誘致だけでなく、既存の企業・産業を育成する政策立案・実行能力が求められる時代になったといえる。結果として、今後は地方間の新たな経済格差現象が生じることになる。
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いざなみ景気抜きも回復感がでない要因を日銀「短観」からみる(2006/11/1)
戦後最長の57か月の上昇期間を記録した「いざなぎ景気」に今回の景気の底からの上昇期間が10月に並び、11月に抜くことになる。マスコミがこの話題を取り上げても、論調は今一つ盛り上がりに欠けている。理由は、高度成長期のいざなぎ景気と比べて経済成長率の低さもあるが、それよりも高度成長期以降の回復・上昇期と比べても景気回復感が広がらない要因がある。
その要因として、@企業収益の回復・改善が個人所得にまで波及しない企業収益と個人所得との乖離、A企業・企業規模・産業間回復格差、B地域間所得格差、の3つが大きいことが挙げられる。つまり、景気回復が一部に偏在し、全体に浸透していない。@の個人所得の回復の遅れに関しては6月1日付けの当レポートで指摘した。今回はAの企業・企業規模・産業間所得格差について日本銀行の「全国企業短期観測調査(短観)」によって分析する。
短観は3か月(四半期)ごとに金融機関を除く資本金2千万円以上の製造業、非製造業の企業に対して行う調査で、回収率の優れた信頼性の高い調査である。06年9月調査は全国9,863社に対して行い、回収率は98.6%となっている。調査内容は多岐にわたるが、通常は業況調査が注目され、「良い」と「悪い」の回答比率差(%ポイント)による企業の景況感が景気の判断に使われ、マスコミでも大きく取り上げられる。
9月調査の業況判断は製造業で大企業(資本金10億円以上)24、中堅企業(同1億円以上10億円未満)14、中小企業(同2千万円以上1億円未満)6,非製造業で大企業20、中堅企業5、中小企業マイナス8となっており、非製造業の中小企業を除いて業況が「良い」という企業の方が多く、規模が大きいほど良好である。製造、非製造、企業規模によって業況判断に大幅な格差があるが、これ自体は別に珍しいことではない。
これを高度成長期以降の過去のピーク値と比較すると、バブル末期の1989〜90年にピークを迎え、その値はそれぞれ順に53、42、36、57、43、34といずれもプラスの高い数字である。今回の景気回復期間が長いとはいえ、このピーク値に比べればかなり低い数字であり、特に非製造業が相対的に低い。
一方、企業業績を売上高経常利益率でみると、短観の05年度実績は製造業で大企業6.48%、中堅企業4.37%、中小企業3.76%、非製造業で大企業3.93%、中堅企業2.66%、中小企業2.43%となっている。業況判断と同じように企業規模が大きいほど高収益である。
規模間格差が生じるのは従来と変わらないが、同様に過去ピークと比較すれば大きく異なる。過去ピークは製造業は規模に関係なく1989年度で、非製造業は規模によって大きい方から2000年度、89年度、90年度で、非製造業の大企業を除いてバブル期末期になる。このときの値を順にみると、5.75%、5.21%、4.50%、2.66%、2.16%、3.75%である。このピーク値を大企業は9月調査で製造業、非製造業のいずれも越え、その他は非製造業の中堅企業を除いてまだ下回っており、過去ピーク値との比較で規模間格差は大きい。ちなみに、非製造業大企業のバブル期のピークは88年度で、2.38%である。
この格差の原因は、企業規模の小さい企業は大企業の下請けが多いことから、大企業は収益が改善しても、下請けに対しては納入価格の値上げを認めない、さらには引き下げを求めているためと考えられる。これは正規従業者を増やさず、賃金を引き上げないこととも同様のコストに厳しい経営経営といえる。
大企業ではすでに売上高経常利益率が過去ピークを上回りながら、業況判断ではまだ大幅に下回っている。この背景には、企業間業績格差が拡大してることがある。少数の好業績企業が高収益を上げ、その他は収益改善が遅れても、全体として売上高経常利益率が高くなることはありえる。その一方で、短観の業況調査の選択項目は「良い」「さほど良くない」「悪い」であり、多くの収益改善が遅れている企業が「悪い」でなくても、「さほど良くない」を選択すれば、業況判断の「良い」−「悪い」の値はプラスでも小さいものに留まる。このように業績回復状況に企業間格差が発生していれば、低いプラスの業況判断と高い企業収益率は両立する。
今回の景気回復局面ではこのように企業・企業規模・産業間回復格差が生じており、特に、中小企業の数が多いため、中小企業の回復が過去と比較して遅れていることは全体の回復感を乏しくする。企業経営が業績で評価される傾向が強まり、特に上場企業は企業業績が厳しく問われる時代において、業績優先がこのような状況をもたらす一因になっていることは間違いない。
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経済分析は客観的、多面的に(2006/10/01)
政府の9月「月例経済報告」は@企業収益は改善し、設備投資は増加している、A個人消費はこのところ伸びが鈍化している、B輸出は横ばいとなっている、C生産は緩やかに増加している、などから全体として景気は回復している、との見解を示している。@企業収益の改善による設備投資の増加、C生産の穏やかな改善などは輸出の回復に起因しており、現状も輸出が日本経済を支えている構造は基本的には変わらない。ところが、輸出が横ばいとなり、個人消費の伸びも鈍化しているとなれば、今後の景気の見通しは厳しくなる。
月例経済報告では「梅雨明けが遅れたことなどの一時的な要因もあって」伸びが鈍化しているとしている。8、9月も天候的には恵まれなかったことから、個人消費の不振が景気の基調を変化させることを懸念する声もある。しかし、過去の例をみてもその可能性は少ない。
今年の梅雨明けは、気象庁がようやく7月30日に近畿・東海・関東甲信地方の梅雨明けを宣言した。関東甲信地方は平年より10日程遅いが、同様に梅雨明けが遅れた2003年より3日早かった。ただし、気象庁の梅雨明け宣言後も数日間は天候がすっきりせず、実態は03年並といえる。今年は、日本銀行が6月14日に金融政策決定会議でゼロ金利政策を解除し、市場の短期金利(無担保コール翌日物)の誘導目標を実質0%から0.25%に引き上げた直後の異常気象による長梅雨になった。7月末頃には、長梅雨が個人消費の夏需を冷え込ませ、金利の上昇と合わさって景気を悪化させるという意見もあった。
夏需をエアコン、扇風機等の耐久消費財、水着、クールビズ等の半耐久消費財、冷菓、清涼飲料等の非耐久消費財に分けると、耐久・半耐久消費財は6、7月の天候、特に土・日など休日の天候に左右される。これから判断すれば、耐久・非耐久消費財の夏需は不振に終わったと推測される。これに対し、非耐久消費財は8、9月の天候による部分も大きいが、今ひとつ盛り上がりに欠けていると推測される。
今後の景気への影響を考える場合、2003年の事例が参考になる。この年は長梅雨の後、8月は低温・日照不足になった。つまり、非耐久も含めて全ての夏需が不振だった。当然、個人消費への影響があった。
GDP統計の実質民間最終消費の推移は季節調整済みの前期比で、2003年1〜3月期と4〜6月期の2四半期連続の0.2%減から、7〜9月期は0.4%増とむしろ低迷を脱した形で、天候の影響が全くなかったことになる。ところが、原数値の前年同期比ではこの間、1.2%増、0.3%増、0.2%減となり、7〜9月期の不振が顕著になる。夏需関連産業の生産・出荷動向から、実態を反映しているのは原数値の前年同期比と判断される。いずれにしても、統計は季調値だけでなく、原数値も調べるなど多面的に分析しなければ、判断を誤ることになる。そして、次の10〜12月期は前期比1.2%増、前年同期比1.0%増となり、実質民間最終消費は7〜9月期の不振から脱している。
一方、実質GDP成長率の前期比成長率は03年1〜3月期の0.3%減から、4〜6月期0.7%増、7〜9月期0.5%増、10〜12月期1.6%増、04年1〜3月期0.7%増と推移し、03年度は2.3%増の着実な回復となった。03年1〜3月期のマイナス成長は輸出が一時的に落ち込んだためで、その後、輸出が持ち直し、回復基調に変化はなかった。
結局、天候要因は軽微だった。季節商品の需要動向はマスコミの話題になるため、実態以上に評価される傾向にある。マスコミは話題優先であり、現象を報道することが多いため、客観的な判断をするには統計資料も含めて冷静な分析が必要になる。統計資料も完全なものはないので、原資料の集計の対象、方法などからその精度がどの程度か計って利用しなければならない。
景気に対しては個人消費よりも輸出の方の影響が大きい。もちろん、個人消費が景気に影響がないわけではないが、今回の景気回復局面では企業収益の改善、景気回復が個人消費にまで及ばない構造になっており、景気を引き上げるような力は期待できない。今回は、景気の底入れ段階から一貫して牽引したのは輸出であり、その輸出が横ばいになったことの方が懸念材料になる。米国経済が金利引き上げで住宅価格の上昇が止まり、個人消費に冷え込む兆しが出ている影響が日本の輸出の伸びを止めていると考えられる。輸出の横ばいが一時的現象で終われば、03年度のように景気の回復基調に変化はないが、長引けば下降への転換になる。
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労働需給の改善が賃金の上昇に結びつくか(2006/09/01)
労働市場の改善は急速に進み、総務省「労働力調査」による完全失業率は2006年2月以降、約8年振りとなる4%程度に低下し、また、厚生労働省の「一般職業紹介状況」の有効求人倍率(季節調整値)は2005年12月にほぼ14年振りに1水準を上回り、その後も回復傾向にある。労働市場の改善は賃金上昇に結びつき、雇用数の増加と合わさって個人消費の回復が期待できる。その一方で、物財とサービス財の構成がほぼ半分ずつの消費者物価指数は労働力依存の高いサービス財の値上がりで、上昇をもたらす。
しかし、賃金は低位安定で、個人消費は顕著な回復力にはほど遠い状態である。消費者物価指数も原油に代表される原燃料価格上昇の影響を受けている商品・サービスを除けば、まだ上昇傾向に入ったとはいえない。つまり、労働需給と賃金との間に乖離現象がみられるのが景気の現局面での特徴となっている。その理由としては、企業のコスト削減意識がまだ根強く、雇用の増加を図っても、できるだけ賃金、労働コストはそのままか、むしろ下げたい考えていることにある。
生産性の上昇を別にすれば、労働コスト削減の方法としては@労働者の削減、 A賃下げ、B賃金の安い労働者への転換、の3つ考えられる。1990年代の長期不況期から2000年代にかけては労働者を削減し、国際競争力を維持するためには賃金が高すぎるとして賃下げが行われた。さらに、賃金の高い正規労働者をできるだけ減らし、契約・期間・派遣等の非正規労働者の雇用を増やしてきた。
景気が回復し、大企業を中心に企業収益が高水準に達し、労働需給が改善している現状では、労働者の削減は終了したと推測され、また、収益改善状況下で賃下げはできない。このため、労働コスト削減意識の高い企業は労働者削減が終了し、労働力を増やす時代に入っても、増やすのは賃金の安い非正規労働者となっている。先行き雇用が不透明で、賃金が安ければ、税金や社会福祉制度などの問題は別としても、個人消費の回復力は弱い。
この実態を厚生労働省の有効求人倍率と「毎月勤労統計調査」(事業所規模5人以上)の賃金でみると、全体の有効求人倍率が1を上回っているといっても、パートを除いて労働時間が同じ非正規労働者は含まれるパートを除く有効求人倍率は7月でも0.98でまだ1を下回り、うち正社員は1を大きく割り込む0.60でしかない。このため、正社員の賃金は分からないが、パートを除く労働者の一般労働者の所定内給与指数は前年比で、伸び率は1%にも満たないほぼゼロ成長でこの4〜6月期まで推移し、7月は0.5%減とマイナスになっている。
一方、パートの有効求人倍率はバブル崩壊後もほとんど1を下回らず、2000年以降は1を上回る高水準で推移している。労働者の希望も配慮するが、企業が望む時間だけ働く最も効率的で労働コストの安い労働者がパートであり、長期不況期にも需要水準は高かった。しかし、パートの所定内給与水準は2005年までは一般労働者と同じような推移である。ところが、前年比で05年末の10〜12月期1.1%増、06年1〜3月期1.3%増と上昇傾向がみられる。ただし、4〜6月期は0.5%増、7月0.2%増と伸びは鈍化しており、賃金上昇基調の中での一時的な中だるみか、05年10〜12月期、06年1〜3月期が一時的な現象で終わり、ゼロ成長軌道に戻るのかが注目される。
というのは、小売業、対個人サービス業はパート労働者の比重が高く、賃上げが消費者物価指数への影響が大きいからである。一方、一般労働者の賃金の伸びは低水準に張り付いたままであり、正社員の労働需給が1を大きく下回った状態では、正社員の賃金の伸びも予想されない。ただし、団塊の世代の退職期を控えて新卒者の賃金上昇が考えられるため、若年層の賃金上昇はあり得る。それでも、全体的にみれば賃金引き上げ効果は少なく、当面、賃金面から個人消費の回復は期待できない。
労働需給が全体でみて改善といっても、その中身をみなければその実態は分かず、賃金水準との関係も理解できない。
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ゼロ金利解除は景気に影響なし(2006/08/01)
日本銀行は6月14日の金融政策決定会議でゼロ金利政策を解除し、市場の短期金利(無担保コール翌日物)の誘導目標を実質0%から0.25%に引き上げることを決定した。2000年8月にも同様に0%から0.25%に引き上げられたが、その直後に景気が下降に転じたことから、景気への影響を懸念する声もある。
前回の2000年はその直後にITバブルが崩壊してしまった。米国の景気は悪化し、日本の輸出が減少に転じたため、輸出主導で回復していた日本の景気は2000年の11月がピークになった。このため、2001年2月に再度ゼロ金利に戻ることを余儀なくされている。しかし、この程度の水準への引き上げで実体経済に影響があるわけはない。むしろ逆に、金利の上昇局面では、初期には駆け込みで住宅需要が増加する傾向にある。今回も耐震強度偽装問題の影響も表面化せず、住宅需要が伸びているのはその要因が考えられる。
懸念する声が少なくないのは、90年代初めから異常な低金利が長期化していることで、ゼロ金利はもちろん、コンマ以下の金利が異常事態という認識が一般的になくなっているのかもしれない。日銀が金融政策を正常化する水準をどこに置いているかは分からないが、ある程度の金利水準にしたいのは当然である。
一方、物価上昇がプラスになったとはいえ、まだ上昇率は低い。また、景気回復が長期的に持続しているといっても、輸出と民間設備投資に依存した回復であり、力強さに欠けるという意見もある。民間設備投資も輸出の増加に依ることから判断すれば、輸出依存の回復は確かである。しかし、政府が増税、医療費負担増、年金改悪など個人消費を冷え込ませる政策をとっている限り、景気回復効果が個人消費にまで広がることは当面期待できない。結局、景気回復の基盤が安定するまで待てば、いつゼロ金利が解消できるか分からない。
ただし、ゼロ金利解消が景気に影響ないといっても、前回のような状況が予想されないわけではない。前回は米国のITバブル崩壊があったが、今回は住宅バブル崩壊による対米輸出減から景気後退があり得る。米国の個人消費は住宅価格上昇による資産価格上昇が支えている面もあるからである。米国では原油価格高騰で物価が値上がり傾向にあり、金利が引き上げられている。米国の公定歩合はそれまでの0.75%から2003年6月に一気に2.00%に、その後は0.25%ずつの小幅の引き上げが続き、今年6月には6.25%まで引き上げられている。この影響で住宅価格が頭打ちになってきており、住宅バブル崩壊による消費の冷え込みも否定できない。そうなれば、偶然でも2回連続という皮肉な結果になる。
それでも、前回は消費者物価上昇率が微減でも前年比マイナス基調であったのに対し、今回は原油を中心とする国際商品市況の値上がりから、まだ微増でも同プラス基調に転換している。加えて、まだ国際商品市況の上昇が最終製品にまでは波及していないが、金融緩和、低金利の長期化でインフレ懸念も出始めている。
また、金融緩和がもたらすマネーゲームに福井日銀総裁が参加者になっていたことも含めて社会問題となっており、福井総裁の責任問題も含めて前回とは異なる環境にある。ついでにいえば、民間からの転身とはいえ、日銀OB、それも副総裁まで務めた福井総裁が罰則規則の有無にかかわらず、金融政策担当者に求められる倫理を分かっていないのであれば、日銀が国際的にも信用がなくなることになる。
いずれにしても、労働需給は1を上回るようになり、民間設備投資が回復していることは雇用や設備の調整が終了し、デフレは終了したと判断できる。景況が急変すれば別だが、異常な低金利は早く終了させることが望まれる。
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地域間所得格差は自主努力で解決するか(2006/07/01)
所得格差問題が俎上に乗るようになってきたが、格差を問題にしない意見は自らの所得の高い人が努力や能力による格差で仕方がないとする例が多い。一方、問題にする人はそれ以外の要因があることを指摘する。所得格差では、個人間以外に地域間格差もある。北海道夕張市が6月200日に財政再建団体への移行、自治体が倒産状態にあることを表明し、後に続く自治体が少なくないのではと懸念されており、地域間所得格差問題は避けて通れない課題になる。
地域の所得に関しては、内閣府から国ベースの「国民経済計算」と同じように各都道府県が計算した結果を集計した「県民経済計算」が発表されている。県民経済計算は国ベースと比較すれば都道府県のデータが乏しいため、信頼性に問題がある。また、最近時の発表数字も2003年度が最新で、国民経済計算より遅いのも欠点である。しかし、内閣府が指導し、全国的に同様の方法で推計してるため、長期的にみれば、一定の評価基準としては利用できる。
これで全国の1人当たり県民所得の上位5位と、下位5位の推移をみると、まず、上位では東京都が突出した第1位を維持している。そして、愛知県が上昇しているのに対し、大阪府が低下し、1998年度以降は上位5位から転落している。愛知県は自動車産業を中心に製造業が県経済を支えているのに対し、大阪府は本社機能の東京流出による地盤低下に歯止めがかかっていないことが原因と考えられる。
その一方で、下位の方をみると、沖縄県は万年最下位で、その他の下位県は順位が少々入れ替わっても、鹿児島県、長崎県、青森県、高知県などが常に下位にある。これらの県の位置が日本の端にあることが特徴として挙げられる。
要因としては、産業構造からみれば、もともと相対的に第1次産業、製造業では非鉄金属、化学、製材などの資源立地型産業、公共投資関連の建設業などの比重が高い。第1次産業や資源立地型産業は資源制約や輸入品に押されて衰退傾向にあり、建設業も財政問題の影響を受けている。また、製造業は都市部で土地不足、人手不足から地方分散が進んだが、都市部の近いところから徐々に地方へと進んでいくため、日本の端まではなかなか到達しない。
この下位の順位をみれば、それぞれの地域の自助努力は当然必要としても、それを超える地理的要因があることは明らかである。つまり、この地域間格差をなくすのが財政の再分配機能であり、それを単に直接お金をつぎ込んで底上げするのは問題だが、間接的にでも地方が自助努力で発展できるような支援策を考えるのが国の役割になる。
ただし、1990年度のバブ崩壊期以降、2003年までの推移では、必ずしも都道府県ベースでみて格差が拡大しているとはいえない。それにもかかわらず、地方での不満が高いのは、統計数字の2003年度以降の景気回復期に地域間格差が拡大した可能性は別にして、@公共投資抑制という政策的な不況感が強い、A格差が維持されていても、所得が伸びていれば、格差が目に見えて拡大しないかぎり、それほど格差を意識しないが、デフレで所得の伸びが止まっているーことなどが要因として考えられる。
いずれにしても、地域間所得格差は就労機会格差をもたらし、このままであれば、所得上位都県への人口集中が進む。それはまた別の問題、たとえば環境問題などを生じさせるわけで、結局、所得格差問題は国内の経済・産業政策を問うているのである。
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景気上昇は期間の長さよりも中身が大切(2006/06/01)
2006年1〜3月期の実質GDP成長率が前期比0.5%増、年率で1.9%増と5四半期連続のプラス成長になったことなどから、戦後最長の好景気であった高度成長期の「いざなぎ景気」を抜く、抜かないが話題になっている。景気を単純に上昇期間の長さだけで計っても意味がない。現実に、最近は国民の所得格差、地域間格差などのマイナス面を問題にする人も増えている。企業収益では過去の水準との比較で、大企業は高いが、中堅、中小企業は低いという規模間格差もある。これは従業員の賃金を通して所得格差にもなる。
もともと、景気の上昇と下降を単に比較すれば、下降より上昇の方が望ましいが、上昇すれば、すべての人に景気回復の恩恵が広がるわけではない。そのために財政の機能の一つに所得再配分が求められている。現在は、政策的にそれを放棄しているわけで、景気上昇の恩恵を受けない人から不満が出るのは当然であろう。ただし、それがそれほど大きな声になっていないのも事実である。
短期の景気循環は@景気がピークを打って需要が鈍化しても、企業がすぐにはそれに気づかないため、生産が過大となり、「意図せざる在庫」が貯まる、A在庫の増加から需要の減少に気づき、生産を抑制する、しかし、当初は生産減は需要減の後追いになり、在庫は増加する、B経済政策などによって需要が回復すると、在庫の増加が止まり、減少に転じる、C在庫が適正水準を下回るようになると、生産は回復に転じ、将来の需要増に備えて「意図した在庫増」も図られ、生産の伸びが加速する、と進んでいく。
これから明らかなように、景気循環は在庫と生産の動向によって生じる。現在の景気局面は、ITバブルの崩壊で景気が下降に向かい、2002年1月を底に上昇に転じ、上昇期間は06年3月までで50か月になる。いざなぎ景気は1960年10月を底に65年7月まで57か月の上昇期間であったので、今回、11月まで上昇すれば、いざなぎ景気を抜くことになる。
しかし、上昇といっても四半期で鉱工業生産指数の対前期比の推移を見ると、時々マイナスの期もあり、特に、2004年7〜9月期、10〜12月期は2四半期連続のマイナスである。高度成長期と比較して伸び率が高い低いといってもあまり意味がないが、成長性が低いだけでなく、かなりよろけた足取りである。
要因は景気回復の内容が偏っていることにある。従来の景気回復パターンは、経済政策や輸出によって景気が回復すれば、企業収益が改善し、設備投資増となる。その後、企業収益の改善が雇用増や残業増、賃上げなどを通して個人所得が回復し、消費拡大につながっていく。
それが今回は、企業のコスト削減意識が強く、個人所得の増加が抑えら、多くの国民には最悪期は脱した感はあっても、本格的な回復感までは至っていない。そのうえ、政府が経済政策で支援するどころか税・保険料負担を増やし、公共料金の値上げを行い、年金、介護保険では将来不安を高める政策を採っている。
このような状態で上昇期間の新記録を議論しても意味があるとは思えない。もっと景気回復の中身に関して、例えば、企業収益の増加が個人にも波及するように、正規、非正規の雇用条件格差をなくす、労働基準法を遵守するように罰則を強化することで個人所得を保障し、消費の拡大を図るような議論が必要である。
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